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麹菌を発酵に使っているのは日本だけ?外国のカビ発酵食品は麹菌じゃないの?

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健康科学

こんにちは。
発酵学研究者が語る健康とエビデンス管理人の勝瀬です。
今回は日本と外国のカビ発酵食品についてです。
外国にもカビ発酵食品は多数ありますが、麹菌を使っているのは日本だけという事は知っていましたか?
今回は外国はどういった菌を使っているのか、という点や何が違うのかという点を踏まえて説明したいと思います。

海外のカビ発酵食品は麹菌を使っていないの?

そもそもカビ発酵食品はアジア東部の文化だという事はご存じですか?
ヨーロッパにもカビを用いたチーズなど一部カビ発酵食品はありますが、それは例外で基本的にヨーロッパにはカビ発酵食品は存在しません。
なぜならヨーロッパの夏は乾燥しており、カビの生育に適した条件ではないからです。

その為、世界には様々なカビ発酵食品がありますが、そのほとんどは東アジアのものです。
カビ発酵食品にはテンペやブボド、ルクパンなど様々なものがありますが、これらは大きく2種類に分けられます。
1つが日本の麹菌を使った発酵食品、もう1つはそれ以外です。
つまり、日本の麹菌発酵食品のみが特別だという事です。
では、日本の麹菌発酵食品と海外のカビを用いた発酵食品は何が違うのでしょうか?

日本のカビ発酵食品は、麹菌を使っていますね?
しかし、海外のカビ発酵食品は基本的にクモノスカビというカビを用いています。
麹菌は全て Aspergillus 〇〇という名前をする Aspergillus 属の菌たちなのですが、クモノスカビは Rhizopus 〇〇という名前の Rhizopus 属です。
同じカビでも全く種類が異なります。

全くカビの種類が違うという事は分かりましたが、では何がどう違うのでしょうか?

海外は餅麴、日本はバラ麴

違いが分かりやすい為、お酒造りの初めの工程を用いて説明します。

お酒はとても簡単にいうと、初めに穀物に含まれるでんぷんを菌などの力で糖にします。
そして酵母の力によりこの糖からアルコールを作ります。
日本では麹菌によって穀物のでんぷんを糖にしていますが、日本以外の東南アジアの国ではクモノスカビを用いてでんぷんを糖にしています。
この部分が大きな違いです。

日本以外の東アジアの国ではまず米などの穀物を生のまま細かく砕き、水を加えて丸める、又はレンガ状に固めて餅麴とします。
そしてこの餅麴を~1か月程保管すると表面にびっしりとクモノスカビが生えてきます。
環境にはクモノスカビ以外の菌もいるのですがクモノスカビの生育速度が一番早い為、この様な結果になります。

https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/industry/world/world03.html  より引用

左が中国で用いられている餅麴です。
固められた米にびっしりとクモノスカビが生育しています。
クモノスカビ自体の味は食べ物として好ましくないので、表面のカビを除いて用います。
餅麴から醸造されるお酒は紹興酒のような味わいになり、餅麴を蒸して蒸留した場合には白酒の様なお酒が造られます。

では日本ではどの様に行われているのか。
日本では餅麴ではなくバラ麴というものが造られます。
先程の餅麴の画像の右側にあったものです。

麹菌は生育するのに大量の酸素が必要なため、バラバラにすることで通気性を確保する事が大切なんです。
また麹菌はクモノスカビと比較して成長するのが遅い微生物ですので、クモノスカビの様に放置しておけば大丈夫。といったようにはいきません。
その為昔から麹菌発酵食品を製造している場合には麹室と呼ばれる麹菌培養専用の空間を用意していたりしました。
また、雑菌の混入を防ぐ為に米等を蒸して殺菌した後に麹菌を繁殖させていました。

この様に説明するとクモノスカビの方が遥かに優れている様に思えるかもしれませんが、麹菌には素晴らしい利点があります。
一つ目は糖を分解するアミラーゼなどを大量に生産するという事です。
その為麴を生産するのにかかる時間が非常に短く、2-3日で完成してしまいます。
クモノスカビでは餅麴を作製するのに~1カ月かかるという点と比較すると圧倒的ですね。

2つ目は多核であるという事です。
通常生き物は1つの細胞に1つの核というものを持っています。
核にはその生物のDNAなどが含まれているのですが、麹菌は1つの細胞にいくつもの核を持ちます。
核が1つである微生物は成長途中や、子孫を残す際にDNAに変異が入ってしまい100年などの長い期間で見ると違った性質を持った微生物となってしまう、という事があります。
その点、麹菌は多数の核を持っていますので他の生物と比べて格段に安定しています。
私達は100年前と変わらぬ味を楽しむことが出来るのです。

DNAや核について分からない方は以下の記事を読んでみてください。

3つ目が麹菌はウォロニン小体という特別な構造を持つという事です。
クモノスカビと麹菌は糸状の生物なので、ちぎれやすいといった特徴を持っています。
その為、クモノスカビを麹菌の様にバラ麴の様な状態で培養させようとするとちぎれて大半が死んでしまいます
しかし麹菌はウォロニン小体と呼ばれる特別な構造を持っており、ちぎれても今まで通り生育することが出来ます。
餅麴と比べてバラ麴の方が表面積が大きく、また大量の菌を一度に培養できる、更には生産性が高いといった特徴を持っています。
ウォロニン小体のお陰で私達は素晴らしい発酵技術を得ることが出来たという訳ですね。

ウォロニン小体については以下の記事で説明しています。

なぜ外国は麹菌を使わないの?

様々な利点を持っている麹菌ですが、なぜ外国では麹菌が使われていないのでしょうか?
実は外国に存在する麹菌の仲間は毒を作り出してしまうという性質を持っているのです。

外国の麹菌の仲間はマイコトキシンというカビ特有の毒を作り出す性質を持っています。
また、肺に入り込んで増殖する事でも有名であり、肺アスペルギルス症などの原因にもなります。
外国では麹菌の仲間は病原菌でしかないんです。

ではなぜ日本の麹菌は安全なんでしょうか?
実は日本の麹菌はマイコトキシンを作る遺伝子がごっそり無くなっているのです。
原因はなぜか分かっていませんが、その為麹菌は毒を作り出すことが出来ません
一時期お隣の中国の一部の研究者達が麹菌の危険性を研究しているとの噂もありましたが結局は危険性はないとの事でした。

そういった事もあってか麹菌は米国食品医薬品局にGenerally Recognized As Safe(訳:一般に安全と認められる)食品としても認められています

安全で日本にしかない麹菌、和食がユネスコ無形文化遺産に認定されたのも麹菌のお陰が強いのではないでしょうか。
是非積極的に食事に取り入れて、健康的な毎日をお過ごしください。

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